概要
日本で昔から親しまれている食材のひとつ「山芋」。
すり鉢などで擦って「とろろ」にすることから「とろろ芋」とも呼ばれています。
地方によっては、大和芋、長芋、自然薯とも呼び、形も品種も異なりますが基本的には同じヤマイモ科の食材です。
滋養強壮に効果があると言われており、主に夏から秋にかけて色々な場所で提供されています。
今回はこの山芋について理解を深めていきましょう。
「山芋」の歴史
古くは薯蕷と書いてヤマノイモと読んでおり、元々は野生の植物でした。
かつては山へ行って掘ってくるものでしたが、地中深くに根を張る山芋を掘るには深い穴を掘る必要があり、掘り出すだけでも一苦労です。
更にその穴をそのまま放置すると危険なので、埋める必要もあります。
この時、蔓の先端に当たる芋の端を残して埋めると翌年も同じ場所で山芋を収穫することができます。
しかし、掘り出した後の穴が原因で山の斜面の崩壊を助長する可能性もあることから、一部の場所では山芋掘りは禁止されています。
そのため、現在市場に出回っている山芋はほぼ栽培されたものになります。
名産地
鳥取県
山芋と一言にいっても色々な品種があり、全国各地で収穫されています。
例えば、鳥取県では長芋の品種のひとつ、「砂丘ながいも」があります。
県中部の砂丘地で栽培されたながいもで、外見は肌が綺麗で適度な粘りとサラっとしています。
他にも「砂丘ながいも」と粘りの強い「いちょういも」を掛け合わせた「ねばりっこ」という新品種も登場しました。
こちらは粘りが強く、ほのかな甘さあります。
長野県
長野県では「徳利芋(とっくりいも)」の産地として知られています。
長芋の一種でありながら、地中深くになるにつれて太くなっていき、まるで”とっくり”のように見えることから徳利芋と名付けられました。
徳利芋は粘りが強く、サクサクとした食感と適度な甘さがあります。
また、徳利芋は長野県信濃町で栽培されており、この地域の火山灰による有機質に富んだ土壌で育ち、栄養を含んだことで”とっくり”のような形になったのではないかと言われています。
そのため、他の地域では栽培しにくく、この地域ならではの長芋となっています。
北海道・東北地域
全体的な生産量でいえば、北海道が全体の4割近くを占めて最も多く、次いで青森県が3割となっています。
3位に長野県が入っており、東北地方の方で比較的採れるようです。
自然薯の名産地もやはり北海道、青森、長野となっています。
海外
海外の熱帯地方であるナイジェリアでは、山芋は約3800万トン生産され、山芋の生産国1位となっています。
続くガーナでは約700万トン、コートジボワールでは570万トンもの数の山芋が生産されており、流通量も多いため、夏場は安価で出まわっています。
山芋生産国4位のベナンで約295万トン、5位のエチオピアで約119万トン生産されています。
日本では山芋全体で約17万トン生産されており、その内自然薯は北海道で約5万トン、青森は約5万トン弱なので、栽培の難しい天然物の自然薯はやはり貴重な存在であることが伺えます。
そのため、地方のスーパーなどでは見かけることすら稀で、国産品にこだわる方は主にネット通販で購入したり、直接農家の方から買い取っています。
保存方法
山芋の保存方法はいくつかあり、カットしていない場合はそのままの状態で新聞紙で包み、風通しの良い冷暗所で保存します。
これで1ヶ月程度は保存可能です。
新聞紙に包んで冷蔵庫の野菜室で保存する場合も、1ヶ月程度保存できます。
さらに、おがくずの中に埋めると2~3ヶ月程度保存できるようになります。
カットした山芋を冷蔵保存する場合は、切り口から水分が抜けるので、ラップをゴムなどで縛って新聞紙に包むか、野菜用のポリ袋に入れて野菜室で保存します。
目安として1週間程度は保存できます。
とろろにした場合は、そのままの状態なら冷蔵保存で3日程度。
冷凍する場合はポリ袋に入れて、薄く伸ばすか、金属トレーに乗せて急速冷凍します。
解凍する時は凍った状態で流水に当てて解凍するか、電子レンジで半解凍して、その後は自然解凍させます。
効果・効能
豊富な食物繊維
山芋は食物繊維を多く含んでおり、とろろにすることで効率よく食べることができます。
そのため、多くの女性の悩みである便秘の改善が期待できます。
中国では山芋は漢方薬として昔から使用されており、食物繊維が糖質の吸収を抑えることで糖尿病の予防にもなります。
また、食物繊維を多く取ることで大腸癌などの予防にも繋がるとも言われています。
滋養強壮に
山芋は栄養価値は高く、良質なデンプン消化酵素を多く含くんでいます。
この消化酵素により、消化が促進され、栄養を効率よく吸収することができます。
特にとろろにすると消化酵素の働きが更に良くなり、山芋の栄養価も高いため滋養強壮に繋がります。
そのため、夏バテしがちな夏の時期にとろろはピッタリの食材と言えます。
高血圧、動脈硬化の予防に
山芋には高血圧、動脈硬化の予防に効果的なコリンが含まれています。
このコリンが高血圧の予防をするアセチルコリンの材料となります。
コリンは他にも神経伝達物質の素になり、老人性の認知症の改善にも期待できます。
また、山芋はサポニンも含んでいるので、抗酸化作用で脂質の酸化を防ぎ、動脈硬化の予防にも繋がります。
むくみの解消
山芋にはカリウムが多く含まれています。
大体100gあたり430mg程度と言われており、これは食品の中でも高い方です。
カリウムはミネラルの一種で、塩分にはナトリウムが多く含まれています。
通常、体内ではカリウムとナトリウムの濃度が一定のバランスで保たれていますが、塩分の摂り過ぎでこのバランスが崩れると体はナトリウムの濃度を下げるため水分を溜めこみ、結果的にむくみの原因となります。
カリウムはそんな体内の塩分濃度を調整する働きをしてくれ、余分な塩分を身体の外に出す働きをします。
これによりむくみの解消を期待できます。
そのため、カリウムは生きるために欠かせない栄養素と言えます。
現代人はカリウム不足と言われており、塩分が高い食事をとる機会が多い人は意識してカリウムを摂取する必要があります。
ダイエットにも
山芋は100gで約65kcalで、じゃがいもは85kcal、さつまいもは約130kcalなので芋類の中ではカロリーは低い方です。
食物繊維も豊富なので、お通じが改善され、ダイエットにも繋がります。
また、山芋のネバネバに含まれるムチンは血糖値の急激な上昇を防ぐので、肥満防止に繋がると言われています。
また、山芋には脂肪燃焼効果を上げるカプサイシンも含まれており、ダイエットをより効率良くしてくれます。
すぐには効果は現れないので、生で毎日食べるようにして、長期的に食べることで自然と体重も落ちていきます。
一部では“とろろは太る”と言われていますが、これは正しいとはいえません。
正確には、とろろにしたことで消化が促進され、腹持ちが悪くなるために、結果的に余分な間食や他のものを多めに食べてしまう生活を続けたために”とろろは太る”と言われました。
とはいえ、山芋は炭水化物の芋類なので、食べ過ぎするとかえって逆効果になってしまいます。
なので、基本的には少量を短冊切りなどにして毎日食べることを心がけましょう。
何事もやり過ぎ、摂り過ぎは良くないということですね。
山芋と長芋の違い
山芋と長芋は同じナガイモ科ですが、その違いはあまり知られていません。
ではどう違うのでしょうか?
山芋はその名の通り日本の山で自生していた芋で、粘り気が強いのが特徴です。
自然薯も山芋のひとつに含まれます。
対して、長芋は中国から入ってきた芋で、元々日本国内にはありませんでした。
粘り気は弱く、水分が多いため、とろろにしても食べやすいのが特徴。
また、生産量は山芋は少なめで、価格は高めになっています。
一方で、長芋の方は全国的にも生産量は多く、価格も手軽になっています。
含まれる成分量はそれぞれ微妙に異なりますが、どちらも健康に良い素材となっています。
美味しい食べ方
麦とろご飯
栄養のある麦飯は白米に比べて消化が悪いことで知られていますが、とろろとは相性が良い食材です。
とろろに含まれる消化酵素により、麦飯の消化の悪さを改善し、効率よく消化することができます。
粘り気が強い天然の山芋の場合は、出汁でのばして、酒、みりん、醤油、白味噌、卵などを入れて「とろろ汁」にして、麦飯にかけて食べます。
ネギや青海苔などを入れても良いですね。
山芋サラダ
山芋をとろろにするのが大変という人は、サラダにすると良いでしょう。
洗って皮を剥き、細切りにした山芋をボールに入れて、軽くかき混ぜて粘り気を出し、味ポンや醤油などをかけるだけ。
山芋のシャキシャキとした食感を手軽に楽しめます。
白い涼し気な見た目も相まって夏にピッタリの料理です。
キュウリやミョウガ、かつお節などを足しても良いでしょう。
山芋の素揚げ
山芋のネバネバとした食感が苦手な人は、短冊切りにした山芋を素揚げにすると良いでしょう。
山芋の栄養素は熱に弱いですが、短時間で揚げればあまり栄養が損なわれることなく食べることができます。
そのため、衣を付けて天ぷらにした山芋をうどんや蕎麦と一緒に食べるのも良いでしょう。
山芋の味噌汁
山芋や長芋は味噌汁とも相性が良く、昔から人々に親しまれています。
作り方は、普段の味噌汁を作るる時と同じく、水と出汁を鍋に入れて煮立たせ中火に。
山芋・長芋はサッと火に通して、弱火にした状態で味噌を溶かします。
あとはひと煮立ちしたら完成です。
ポイントは山芋・長芋に熱を加え過ぎないことです。
あまり熱を加えるとあのネバネバ感が損なわれ、栄養素も損ないます。
椀盛りで温まる程度を目安に調整すると良いでしょう。
お好み焼き
一般的なお好み焼きは518kcalありますが、お好み焼きにとろろを入れることでカロリーを抑えることができます。
また、とろろをお好み焼きに入れることで、ふんわりとしたお好み焼きにできます。
とろろ、千切りにしたキャベツ、卵、かつおぶし、醤油(濃縮麺つゆでもOK)を合わせで生地を作ります。
フライパンにごま油を引いて、生地を流し込み、両面が程よく焼けたら蓋をして、約10分弱火で蒸します。
後はお好みでチーズを入れて2~3分間、チーズが溶けるまで待ったり、マヨネーズ、ソース、かつおぶし、青のりなどをトッピングして完成です。
ゆるい生地になるため、ひっくり返す時はフライパンの蓋を使うなど少しコツが要ります。
まとめ
山芋は現在では一年を通して食べることができる食材で、味噌汁に入れたり、とろろにして海鮮丼にかけたりと色々な方法で食べることができます。
一方でとろろが手に付いてしまうとかゆみの原因になってしまいます。
そんな時は酢水やレモン水で洗うと良いでしょう。
調理前に皮をむいた山芋を酢水に漬けておくのも効果的です。
また、山芋は栄養効果が高く、とろろは人気のある食材ですがアレルギーを起こしやすいので人によっては注意が必要です。
山芋は何かとクセのある食材ですが、上手くつき合って美味しくいただきましょう。